「転職すれば年収が上がる」——この言葉、20代のころの僕は無条件で信じていた。周りが辞めていくたびに「次はもっと稼いでるらしい」なんて噂を聞くと、なんとなく転職=正義みたいな空気ができあがる。でも実際の数字を並べてみると、その空気はけっこう危うい。今日はdodaが出した「転職前後の年収変動レポート(2026年3月版)」を読んで、僕がちょっと立ち止まった話を書いてみる。
結論から言うと、このレポートは「転職で上がる人はガッツリ上がるけど、全員じゃない」という、当たり前だけど見落としがちな事実をきれいに数字で見せてくれた。転職を煽る記事は世の中にあふれてるけど、僕はこの「増えない4割」のほうにこそ、僕らが本当に見るべきヒントが詰まってると思っている。焦って数字の明るい面だけを拾うと、人は簡単に足を踏み外す。それを僕は投資で一度やらかしているから、余計にそう感じるんだ。
dodaのレポートが見せた「平均+5.1万円」の正体
まず、レポートの数字を整理しておく。パーソルキャリアが運営するdodaが発表した2026年3月の転職者データによると、転職前後の平均年収変動額は全体で+5.1万円(前月差-2.3万円)。一方で、年収が「増加した人」だけに絞ると+71.8万円。そして、年収増加した人の割合は全体の59.5%だった(出典は記事末尾のパーソルキャリア公式リリース)。
この3つの数字を並べると、景色がガラッと変わる。全体平均が+5.1万円ということは、月にならすと4千円ちょっと。「転職=年収爆上がり」というイメージからすると、正直かなり地味だ。僕もこの数字を最初に見たとき、思っていたより控えめで拍子抜けした。ここは煽らずフラットに出してくれていて、個人的にすごく好感が持てた部分だ。
なぜ全体だと地味なのか。答えは「約4割は横ばいか、むしろ下がっている」から。増えた人の+71.8万円という大きな伸びが、増えなかった人たちに薄められて、全体では+5.1万円に落ち着く。つまり平均という数字は、勝った人と負けた人を混ぜて割ったものにすぎない。僕自身、投資でも「平均リターン」という言葉に何度も助けられ、何度も惑わされてきたから、この「平均のトリック」には人一倍敏感になってしまう。
もう一つ、僕がニヤッとしたデータがある。職種別で年収増加した人が多かったのは技術職(SE・インフラエンジニア・Webエンジニア)で65.4%、業種別ではIT・通信、インターネット・広告・メディアで64.8%。僕も組み込みエンジニアなので、自分がいる領域が数字で「まだ評価される市場だ」と裏づけられた感覚があって、そこは素直に嬉しかった。ただし嬉しさと同時に、「じゃあ4割弱のエンジニアは増えてないんだよな」という冷静な自分もいる。得意分野のデータほど、明るい数字に酔わないようにしている。
「+71万」の数字に飛びつきかけた、昔の僕の話
ここからは僕の実体験を交えて話したい。というのも、この「明るい数字だけを拾ってしまう心理」を、僕は身をもって痛い目にあって学んだからだ。
お金に本気で困っていた時期、僕は仮想通貨のIPO案件に手を出して、10万円を全額溶かしたことがある。当時の僕は「これに乗れば一発で変わる」という都合のいいストーリーだけを見ていて、「うまくいかなかったらどうなるか」という反対側の数字を完全に無視していた。学生時代、仕送りゼロで駅もスーパーもない場所に住み、時給の安いコンビニバイトでなんとか食いつないでいた——そういうお金に困った経験があるからこそ、余計に「一発逆転」の言葉に弱かったんだと思う。人はお金に追い詰められているときほど、変な話に飛びついてしまう。あの10万円は、その心理を体で覚えるための授業料だった。
で、このdodaのレポートを読んで、当時の僕を思い出した。もし学生時代の僕がこの記事を読んでいたら、まず間違いなく「+71.8万円」の数字だけを見て、「転職すれば人生変わる!」と飛びついていたはずだ。「年収増加した人だけの平均」という但し書きも、「4割は増えてない」という現実も、きっと目に入らなかった。都合のいい数字だけを切り取る——あの仮想通貨のときと、まったく同じ思考回路だ。
今の僕は、投資でも転職でも「反対側の数字」を先に見る癖がついた。+71.8万円という光を見たら、必ず「増えなかった4割」という影も一緒に見る。この両目で見る習慣は、10万円と引き換えに手に入れたものだと思っている。転職も投資も、明るい平均値の裏には必ず「そうならなかった人」がいて、自分がどっちに入るかは事前には誰にもわからない。だからこそ、データは全部見る。焦らない。これが失敗から僕が持ち帰った、たった一つで一番大事なルールだ。
ちなみに、この「平均年収アップ」の数字をどう読むかについては、以前転職で年収77万アップは本当?平均の罠と入金力という記事で「その平均、誰の中での平均?」という分母の話を掘り下げている。今回の+71.8万円も構造は同じなので、平均値との付き合い方をもっと知りたい人はそっちも読むと、数字に振り回されにくくなるはずだ。
年収アップを「入金力」に変える、今日からの手順
ここが本題。僕は投資を「働き続けることへの恐怖からの逃げ道」として始めた人間で、目標はフルFIREだ。その視点で今回のレポートを読むと、一番刺さったのはこの一点に尽きる。逃げ道(資産)を作るための元本を増やす一番確実な手段は、投資テクニックより年収を上げることだということ。仮想通貨で一発逆転を狙うより、年収を71万上げる転職のほうが、よっぽど再現性が高い。あのころの僕に一番言ってやりたいのはここだ。
とはいえ「今すぐ転職しろ」なんて煽るつもりはまったくない。僕自身、今は大きなセキュリティプロジェクトに関わっていて、すぐ辞める気はない。やっているのは「いつでも動ける状態」を静かに仕込むことだ。明日からできる粒度に分解すると、こんな感じ。
①「増えなかった4割」に自分が入らないよう、市場価値を数値で把握する。まず転職サイトに登録して、今の自分の想定年収レンジを見るだけでいい。dodaのデータで技術職が評価されるとわかっても、それはあくまで全体の話。自分個人がどのレンジにいるかは、実際に登録して見積もりを取らないと分からない。ここで現在地を知るのがスタートだ。
②毎日15分でいいから、市場で値のつくスキルを一つ育てる。僕は毎日英会話レッスンを続けている。これは「英語ができる組み込みエンジニア」という掛け算を作るための仕込みだ。転職するかどうかは別として、選択肢を増やす行為そのものが、逃げ道の担保になる。
③そして、上がった年収は生活を上げずに“入金力”に回す設計をあらかじめ作る。ここが一番大事。年収が上がっても支出が同じだけ膨らめば、資産は増えない。だから僕は「昇給・転職で増えた分は、証券口座の自動積立額に上乗せする」というルールを先に決めている。具体的には、証券会社の積立設定画面を開いて、増えた手取りの範囲でクレカ積立の月額を引き上げ、そのまま自動で買い付けが走るようにするだけ。人間の意志ではなく仕組みに任せるのがコツだ。
仮に転職で入金力が月3万円増え、それを年利5%で20年積み立てられたとしたら、どうなるか。あくまで概算だが、元本720万円に対して評価額は約1,233万円、運用益はおよそ513万円になる計算だ。年収を上げる意味は、生活を豪華にすることじゃなくて、この「未来の逃げ道」に燃料を注ぐことにある——僕はそう捉えている。もちろん相場次第で結果は上下するし、投資は自己責任である。それでも、月4千円(全体平均の+5.1万円)と月6万円(増えた人の+71.8万円)では、20年後の景色がまるで変わることは覚えておいて損はない。

なお、「今すぐ動かないなら意味ないのでは?」と思うかもしれないが、そうでもない。転職を“実行”ではなく“保険”として持っておく考え方については、20代の転職活動率4.5%の裏側|動く準備という保険で、明日からできる「動く準備」を3つ紹介している。今の会社に留まりながら選択肢だけ増やしたい人には、実行のハードルが下がるはずだ。
まとめ
dodaのレポートが教えてくれたのは、転職の年収変動は「全体平均+5.1万円」と「増えた人だけ+71.8万円」という二つの顔を持つということ。そして約4割は増えていない。技術職やIT系が評価される市場だという追い風はあるが、自分がその追い風に乗れる側かどうかは、現在地を測らないと分からない。大事なのは、明るい平均値だけを見て飛びつかず、増えなかった側の現実も同じ重さで見ること。そのうえで、上げた年収を生活の膨張ではなく入金力に振り向ける設計を先に作っておく。転職は目的じゃなく、逃げ道に燃料を注ぐための手段——僕はそう位置づけている。
筆者のひとこと
正直に言うと、僕がこのレポートで一番ホッとしたのは「+5.1万円」という地味な数字が堂々と載っていたことだ。世の中、景気のいい話ばかりが目立つ。でも地味な現実を隠さず出してくれる情報こそ、追い詰められている人を守る。10万円溶かした過去の僕は、地味な数字を軽視して派手な数字に飛びついた側の人間だった。だからこそ、今は地味なデータにありがとうと言いたい気分でこの記事を書いた。ではまた。

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